イバラッパー ロングインタビュー(前編)

2014年、茨城の音楽界に梅ぼし、いや、キラ星のごとくあらわれたご当地ラッパー「イバラッパー」。

標準語と茨城弁を巧みにあやつるバイリンガルラップ。コミカルさを前面に出しつつも、茨城県民なら共感せずにはいられないツボをおさえたリリック(歌詞)。ごじゃっぺかと思いきや、意外と固いライム(押韻)。

ラップのみならず、トラックメイキングやレコーディングからCD制作まで、できそうなことはとにかく自分でやってみるというイバラッパーに、デビューのきっかけや曲作り、今後の展望などについて語ってもらった。

イバラッパーのデビューについて

―まず最初に、イバラッパーをはじめたきっかけを教えてください。

igh01ずばり「ご当地ソング」を作りたかったんです。

震災後、茨城にご当地アイドルが誕生するという話を聞いて、それは面白い試みだなと思ったんですよ。アイドル自体への興味というよりも、音楽が好きなので「」に興味がわきまして。ご当地アイドルが歌う曲=「ご当地ソング」だなと。

以前自分がやっているラジオ番組で茨城のご当地ソング特集をやったことがあって、曲を探したのですが、茨城のご当地ソングってかなり少ないことに気づいたんです。茨城を舞台にした曲がたくさんあったら面白いのに・・・って、ずっと思ってました。曲をとおして地元を好きになったり、愛着が湧いたりすることって絶対あると思うんですよ。別に地元をPRする曲じゃなくても、歌詞の舞台が茨城のどこかってだけでもいいのに、なんでそういう曲がないんだよって、誰にぶつけたらいいかわからない不満を持ってましたね(笑)。

それで、私もこのご当地アイドル誕生の動きに勝手に呼応しまして(笑)、まず作詞をはじめたんです。一応、これでも本を3冊出版している人間なので、作詞ならできるだろうと。しかも、茨城にはめちゃくちゃ詳しいので、ご当地ソングのネタにも困らないだろうと(笑)。

herorins02herorins03ただし、作曲や歌はできないので、やってくれる人をラジオ番組で募集しまして、それで2012年1月に「へろりんず」という番組内ユニットを作って、自分が番組を持っている「ラヂオつくば」をテーマにした曲を披露しました。茨城最初のご当地アイドルしもんchuのデビューが2011年10月ですから、実はご当地系の取り組みとしては私が2番目だと思ってます。といっても、「へろりんず」はアイドルじゃないですけど(笑)。

―イバラッパーの前にそんなことをされていたんですね。そこからどうしてイバラッパーになったのですか?

人にやっていただくのは意外と大変だからです(笑)。作曲できる人を探して曲を作ってもらったり、他の人に歌ってもらったりって、すぐにできるもんじゃないですよね。歌ってくれる人を探すのはそんなに難しくないかもしれませんが、曲を作ることができる人ってかなり限られますから。

このペースだと1曲作るのにすごい時間がかかるなと。というより、自分の思い描いたタイムスケジュールに沿って進行させるのはまず無理だなと。だったら自分でやっちゃうのが一番手っ取り早いという結論に達しました。

イバラッパーの作曲の秘密

―でも作曲はできないとおっしゃっていましたよね?

はい、できません。というか、できませんでした。

実は恥ずかしながら、作曲は過去2回挫折してるんです。1996年にはじめて買ったウィンドウズ95のパソコンでDTM(PCで作曲)にチャレンジしてすぐ挫折し、次はたしか2007年頃にイバラッパーという茨城弁のラッパーをやろうと思ってDTMソフトを買ったのですが、これもソフトの使い方がまったくわからず、すぐあきらめまして(苦笑)。

そういうわけで、イバラッパーの構想自体は結構前からあったんですが、結局作曲できないので実現には至らなかったんですよ。

―それが今回作曲できるようになった理由というのは?

はい、ここがポイントなのですが、「できることをやる」ことにしたからです。曲作りっていろいろな要素があると思うのですが、「できそう」なことと「できなそう」なことを切り分けて、できそうなことだけで曲を作ることにしたんです。

具体的に説明しますと・・・

まず誰でもできるのは「打楽器」なんですよ。つまりはドラムです。実際にドラムを叩くとなるとかなり難しいですが、いわゆる基本パターンみたいなものが決まっていて、PCなら叩きたい場所に打ち込むだけなので結構簡単です。

次は鍵盤です。ピアノ系ですね。これも打楽器ととらえました(笑)。音を出したいところに打ち込みます。

当然リズム主体になるわけです。逆にメロディって全然わからないので、メロディはナシにします(笑)。あきらめが肝心です。ばっさり切り捨てます(笑)。「引き算の美学」です。

―メロディをつけてないんですね(笑)。でもそれなりに曲っぽく聴こえますが・・・

10151393_389417214539452_8683276399817095908_nそれはコード進行のせいですね。コード=和音です。ド・ミ・ソとかを一緒に鳴らすアレです。コードの進行の仕方によって曲の雰囲気がまるっきり変わるので、これは結構重視してます。といっても、やっているのは良さそうなコードを探して貼り付けているだけです。

あとベースはよくわからないんですが、ないとヘンかなと思って、使っているコードの一番低い音(ルート)を中心になんとなく打ち込んで・・・。

そんな感じでリズム(ドラム+ベース)とコードがあれば、それっぽくなることがわかりました。

逆に切り捨てているのはギターです。打ち込みの仕方がわかりません(苦笑)。あとホーン(ラッパ)系もわからないので入れてません。どちらも入れたいんですけどね。

それと、曲を展開させていくのもあきらめています。

―曲の展開というのは、いわゆるAメロとかサビなどのことですか?

はい、例えばJ-POPだと最初は落ち着いた曲調ではじまって、曲の雰囲気が変わってきて、サビで盛り上がる!みたいなそういう展開ってあるじゃないですか。アレってなんだか考えるの大変そうですよね(笑)。

だから展開させるのはあきらめて、4つぐらいのコードを延々とループさせるんですよ。場合によっては2つのコードを交互に繰り返すだけの曲もありますが、それでも全然イケちゃいますから。

―繰り返しで飽きられないものですか?

洋楽だとループはごく普通の手法だし、コードを展開させていく代わりに音の抜き差しで変化をつけるんですね。間奏はドラムだけにしてみたり、サビでは楽器を増やして豪華な感じにしたりとか。ヒップホップを含むクラブミュージックではむしろそっちが定番ですよね。

一定の音を延々とループさせて繰り返すとたしかに飽きはあると思うんですけど、逆に、聴いているうちにトランス状態になってくるというか、音楽との一体感、恍惚感みたいなものは得られやすいですよね。だからダンスミュージックは同じ音をループさせているわけで。まあ、繰り返しの美学です(笑)。

ラップにした理由

―あと、一番重要な要素といえばヴォーカルですが、歌わないでラップにした理由というのは?

BryIUZyCcAIpeNw.jpg large普通はヴォーカル=「」ですが、私、歌は得意じゃないんですよ。ましてや人に聴かせるなんて無理です。ですから歌うのはやめて、代わりにラップをすることにしたんですよ。

考えてみたら、歌の上手い人は世の中にいくらでもいるわけじゃないですか。そんななかで下手な歌を歌うのは正直厳しいですよ。最初から負けがわかっている勝負にわざわざ打って出るほど私はごじゃっぺじゃありません。でもラップならできる人はほんの一握りの人しかいませんから、私にもチャンスがあるかなと(笑)。隙間産業の美学です(なんのこっちゃ)。

あと、ラップをやることに決めた重要なポイントはもう1つあって、それは茨城弁なんです。歌で茨城弁をやるのってほとんど無理なんですね。なぜならメロディーに支配されるので、茨城弁のイントネーションがそのまま使えないんです。でもラップならしゃべりの延長ですからね。

それと、これは完全に後付けですが、やってみてわかったのは歌詞の文字数が多いこともラップにしてよかったことですね。これ、ご当地ソングを作るうえでものすごいメリットなんですよ。なぜならたくさんの名所や名物を紹介できるからです。歌モノだと文字数の関係でどうしても紹介できるものが限られてしまったり、抽象的な表現を使わざるを得えなかったりしますから。

―それで結果的にイバラッパーの今のスタイルが誕生したわけですね

そうなんです。結局、できないことをあきらめた結果がイバラッパーなのです(笑)。かっこよくいうと、自分にできることを突き詰めていった結果がイバラッパーともいえます(笑)。短所をなくす方に力を入れるんじゃなく、長所を伸ばす方に力を入れると、短所はなくなる=目立たなくなるという、いわゆる長所伸展法ってやつです。

イバラッパーのサウンドについて

―ではそのできること、伸ばすべきところはどこにあるとお考えですか?

まずはなんといっても「歌詞」、そして、サウンド面では「音色」ですね。

音色の話を先にしますが、サウンド面で唯一勝負できるのは音色だと思うんですよ。演奏やラップのうまさとか、音質の良さとか、アレンジの幅なんかは、音楽制作を長くやっている人やお金のある人にはなかなか勝てるもんじゃないですよね。

でも音がかっこいいとか、おしゃれだとかは、そういう音を探して組み合わせるだけなので、これがかっこいい、あの音はおしゃれだ、逆にそれはダサいという選択基準を持っていれば作れるのかなと。音質がいいからかっこいいとは限らなくて、むしろローファイ(低音質)でおしゃれってのもありますから。DJ的な要素といえますね。DJはできませんが(笑)

―なるほどたしかに言われてみれば意外とおしゃれに聴こえますよね(笑)。

Exif_JPEG_PICTUREそこ、笑うところじゃないですからね(笑)。そうそう、洋楽みたいですねって言われることもあります。ラップも茨城弁を知らない人が聞くと外国語に聞こえるので、よけいそうなのかもしれませんが(笑)。

先ほどDJ的な要素といいましたが、これって作り出したり、演奏する能力よりも、音を選ぶ能力だと思うので、たくさんの曲を聴いて自分の中にかっこいいと思える曲のデータベースというか引き出しみたいなものをたくさん持っておくのが重要ですよね。

これまでCDにはウン百万とお金をつぎ込んでいますから、ある意味、過去の投資がようやく活かされた結果といえるのかもしれません(笑)。人生には何一つ無駄なものなどないという…(笑)

・・・インタビュー後編はこちら

 

ibarapper02_1038